転居

 今日で一年半くらい住んだアパートを引き払った。転居先がそれほど遠くないのをいいことに、ノロノロと進めていた引越しもなんとか間に合った。全然荷物が無くなる気がしなかったが、やれば終わるもんだ。

 ローテーブルしか残ってない部屋で一人でコンビニのおにぎりを食べながら、ちょっとボロかったけれど、カーテンを全開にしても誰の視線も気にならないし、悪くない部屋だったと思う。毎日滞在していた場所なのに、もう二度と自分がそこに在らないと思うと、これまでもこれからもどれが現実なのか分からなくなる。いつか来る自分の死も、似たような感覚だろうか、なんて想像する。

 以前と違い、新居の周りは家だらけだ。夜、散歩に出ると、人が生活している気配が多い。逆に、奔放に鳴き放題だった虫の声は、どことなくおとなしい音量である。その中を、今後走りやすそうなコースに当たりを付けながらフラフラ歩く。町内を一周すると、けっこう高低差がある。最寄りの公園にはいくつか遊具や健康器具が設置されている。ぶら下がる器具があり、おれはそこで懸垂をした。5回。腕よりも手の平が痛い。そしてただぶら下がっていると、日頃自分がどれだけ酷い猫背であるか実感する。そのまま顔を上げると、遠くに背筋がまっすぐなマンションと高架を流れる電車の灯りが見えた。