帰郷

 昨夜はMさんの実家に厄介になった。三姉妹とその家族が勢揃いし、賑やかな夜だった。今日は皆で遊びに行こうという話になったが、おれは途中の駅で降ろしてもらい、ひとり各駅停車の電車でわが郷里へと歩を進めた。賑やかな風景に、何ひとつ不満は無い。美味しいものを食べさせてもらい、暖かく眠らせてもらった。しかし、皆と一緒にもう何泊かすることを勧められると、おれは首を縦には振られないのである。

 なんとなくこれでよかったんだろうかと思いつつも、一人になって知らない土地を進んで行くと、明らかに気分が良くなってしまっていることを自覚する。流れる風景が冬の冷たい空気と共に刺さってくるのが心地良い。行き合った人と交わすひと言二言にも余裕が出てくる。

 東北の山間で、在来線の電車はマイナーな交通手段だ。途中の路線などは3時間に1本程度しかなく、2輌編成のディーゼル車に乗った。乗り遅れると大幅に予定が狂うが、間に合いさえするのならば時間を大雑把に考えられる、その点では気楽で良い。本数が少ないせいか案外乗客は多い。窓の外に目をやると、普段は雨として地面を流れ去っていく水分が、木や地面の上に白くとどまって、あらゆる輪郭を曖昧にしている。流れていく景色を眺めながら、少しずつ自分の生地に近づいていく。このまますべてが終わるような、そんな懐かしさを感じていた。