師走の過ぎ方

 なぜだかなんとなく時間が無い。やらなければならない用事をこなしているだけ、決めなければいけないことを考えているだけで、毎日いつの間にか寝る時間を過ぎている。ぼんやり物思いのためのなけなしの燃料を火にくべて、効率よく時間を使うための計算資源としなければならないのが情けない。さらにそういう時は、いつものちょっとした息抜きをしようとしても、用事の合間だとか眠いのに無理やり出かけたりだとかするからか、思うようにはならず、やめとけばよかったと後悔する羽目になる。12月の街は、おれのようなやつが落ち着く隙間などないのだ。まあなんとなくこうなると思っていたさと、負け惜しみを自分に投げながら家に帰るのがせいぜいであり、振り返ると面白くもないくせにやたらと笑みを浮かべていたなと気付く。ああ嫌だ嫌だ。

 とは言え、そんなことばかりでもない。思い切って午後休みを取ったある日、行ってみたかったレコード店へ向かった。馴染みの喫茶店で教えてもらった店で、以前から気になっていたが、場所柄なかなか訪れるには至らなかったのだった。マンションのようなビルの3階の一室のドアを開けると、薄暗い古物の匂いの奥から店主のしわがれ声の挨拶が聞こえた。店内は広くはなく、他の客はいない。しかしなかなか緊張する状況だと思ったのははじめだけだった。誰も気にすることなく、ゆっくり品物を選び、支払いの時に少し店主と話をした。久しぶりにすっきりした買い物ができた気がして、楽しい時間を過ごした。

 夕食を拵える気力がおれもM氏も無かったある夜、顔馴染みのレストランで食事をした。一般的には喜ばしいとされる我々の現状を知った店主が、さりげなくデザートとコーヒーをサービスしてくれた。おれなんかの人生にこんなことがあっていいのか、ちょっと信じられない気持ちだった。何も変わらない、変えられなかった生活の中に、誰かがひとつ思い出を作ってくれたことが、今、とても嬉しかった。