オーディオ

 欲しいレコード再生用の機器があり、ここのところネット上を探していた。簡単に買えそうなサイトではなかなか在庫のあるところが見つからず、何回やり方を変えてみても最後は同じオーディオ店のホームページに辿り着いてしまう。今時珍しい手作り感のある個人サイトのようなそこは、どうも個人店らしく、通販もやっているらしいがメールでの詳細なやり取りを必要とするようで、気軽には問い合わせができずにいた。そんな先日、Mが懇意にしている店に遊びに行くというので付いていくか一考したところ、件のオーディオ店の実店舗が近くにあることに気が付いた。興味が湧いて、どんなもんか一回直接訪れてみることにした。

 店はビルの地下にあった。見るからに重そうな扉の窓から覗いた店内は薄暗い。経験上、絶対に面倒くさいことになるという予感がする。しかし二度と来ないような地域であることもあって、ダメでモトモトと足を踏み入れたくなった。自分の悪い癖だと思う。

 雰囲気がヤバかったら、目当ての品を目視確認して、さっさと退店しようかと思っていたが、案の定ヤバかった。明らかに自分の来る場所ではない。陳列棚のようなものはなく、どこまでが商品でどこからが調整中の機材なのか区別が付かない。振り返ると壁沿いにカウンターがあり、直接店主と質問、交渉しなければ何も探すことができないらしい。まるでドラクエの武器屋かなんかのようだった。目当ての品を辛うじて伝え、質問された自分の使っている機材について答えていると、白髪の店主はある程度こちらの事情は察したようで、色々と必要なセッティングについて教えてくれた。自分の希望を叶えるためには、どうやら最低限の予算も知識も不足している。しかし在庫はあるから買うのなら装置の組み立てなどの手間のかかる作業は、安い作業料で店主がベストな状態にしてくれるという。技術も要るというわけですか、と聞くと、昔は誰でもやっていた難しくない作業だけど今それやる人はいないでしょ、とのことだった。どうせあんたもそうでしょ、と続けたそうだった。サンドバッグのような15分、ウンウンと頷き続けて、結局何も買わずに店を出た。始めは馬鹿にされているような感じがしたが、恥を忍んで質問したりすると真面目に答えてくれた。

 やる時は絶対に自分の手で作業して、なんとかしようと思った。でないと意味がないような気がした。