11月4日

 こないだ車で聴いていたラジオで、タレントがおすすめの漫画を紹介するコーナーが流れていた。選ばれた作品は、最近話題になっていたいしいひさいちの"ROCA"。かくいう私も、発売後さっそく通販して読み、胸を打たれた一人であった。ファドには、言葉になりづらい複雑な感情表現があるという。そんな音楽を扱ったこの物語が残す余韻もまた、一言で伝え切ることは難しいというかもったいないというか。作品を紹介する出演者たちも、良さを表現するのに四苦八苦していた。

 最近あらゆるところでよく耳にする「~しかない」という言い方。感謝しかない、尊敬しかない、嬉しさしかない、などなど。基本的にポジティブな気持ちを相手に伝える場面で用いられていることがほとんどだと思うが、短時間で端的な表現ではあるものの、言葉を尽くそうという努力をさぼっているようにも聞こえて、どこか空々しさが付きまとって見える。もしも自分が誰かからその言葉を受け取ったなら嬉しいのだろうか。当面そんな場面はありそうにも無いし、分からない。むしろ、この言い方が相応しいのは、ネガティブな場面じゃないだろうか。悔しさしかない、憎しみしかない、後悔しかない。七転八倒、八方塞がり。

 家に着くまで考えながら運転していたら、ラジオは終わっていた。